帰ると、ミナは家族からさんざんバカにされてしまった。
夕食の場で、父がミナの迷子の件を暴露したからだ。

(お父さんたら、あんなに大袈裟に言わなくったっていいのに・・・)

弟からでさえ、

「姉ちゃん、もうろくする年でもないだろ?」

と言われ、母は母で、ミナが思わず持ち帰ってきた帽子を見て、

「なんなの?その汚い帽子は。捨てちゃいなさいよ。
全く落ちているモノを拾ってくるなんてみっともない・・・」

とブツブツ言いっぱなし。

それらがうっとうしくて、ミナは夕食をすませると、
ふてくされたまま自分の部屋にひきこもった。
部屋に入るやドカッとベッドに体を沈み込ませる。

(それにしても・・・)

ホントに何故、こんなものを持ち帰ってしまったのだろう。
ベッドの傍に置いてあった例の麦藁帽子を右手で掴み、
ミナは目の前でヒラヒラさせた。
どこから見ても何の変哲もない普通の汚い帽子だ。

一通り観察してからヒョイと起き上がると、
ドレッサーの前に座って帽子をかぶってみた。
いろいろと角度を変えて、鏡の中の帽子と自分を見る。
かぶり心地から見たらピッタリである。
まるで何年も前から自分の物であったように。

「しめしめv 美味しそうなモノがあるぞ」

不意に近くで声がして、ミナはビクッとして振り向いた。

「誰っ?!」

しかし、目の前にはいつのまにか閉め忘れたドアから入ってきたのだろう、
ネコの『タヌキ』がテーブルの上に座っているだけだった。
ということは・・・?
ミナは首をかしげる。ラジオやテレビの音でもない。
でも、声というより音に近かったが、断じて空耳ではない。

(待てよ?)

ミナは気づいた。
さりげなく『タヌキ』は座っていたが、
その陰に昨日買って置いたクッキーがあったコトに。

(ふむ・・・)

ミナは腕組みをして、『タヌキ』をじ〜〜っと見つめた。
つと、その視線に耐えられなくなったのか『タヌキ』は目をそらす。

(怪しい・・・)

怪しいといえば、この帽子だった。
ミナはもう一度触れてみた。

試してみる価値はありそうだ。

ミナは帽子をとると、『タヌキ』に近づき、その額を小突いてみた。
すると、『タヌキ』はいかにも迷惑そうにニャアゴと鳴いた。
次に、もう一度帽子をかぶって同じことをすると、

『ニャニするんだよ!?』

と聞こえたのである。今度ははっきりと。
というわけで、この帽子がなんであるかミナにもようやく分かった。
いわゆる『聞き耳頭巾』という奴なのだ。

(ウソ・・・。こ、これって・・・すごいものじゃない?!)

思わず、ミナは部屋を飛び出した。

「お父さん、お母さん! コレ、すごいよっ!!
タヌキの声が聞こえるんだよ?!」

だが、父も母もTVドラマに夢中で、弟は漫画に夢中。
誰もミナの方を振り向かなかった。
あまりの無関心さにミナはガックリと肩を落とし、部屋に戻る。

(ちぇーっ、何よ、何よ。せっかくの大発見なのに。
・・・いーわよ。これはあたしだけで楽しむんだから)

と、ミナはこの帽子で何しようかとアレコレ考えてみた。
とにかく家には『タヌキ』しかいないから、他の動物の声を聞くことはできない。

(仕方がない。今日は『タヌキ』で遊ぶとして、
ちょうど明日は休みだし、出かけてみようっと)

かくて・・・その日『タヌキ』はミナが眠くなるまで散々弄ばれたのだった。

タヌキ曰く、

『いーかげんにしろってーの!!』


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