8、君のために


ここに一つの終わりがあった。

この2年間。
亜夜加さんもグループのメンバーも頑張ったつもりだったけど、
あとわずかという差で、「Vキッズ」に勝つことは出来なかった。

亜夜加さんの仕事は終わった。
グループも解散する。
その前に、立ち去る彼らに言葉をかけよう。
亜夜加さんは事務所の外へ出た。

「今思うとこの2年間、むなしかった・・・」
「アイドルって人気がなくなるとむなしいもんだな」

彼らの言葉は亜夜加さんの胸に突き刺さる。
決してお前が悪いんだとは責めないけれど、彼らの傷は深いだろう。
いつか癒えるだろうか。
その時笑って会えるだろうか。

「じゃあ、またな」

そう言って彼らは去った。
その中に川井くんはいなかった。
別れの言葉もなく行ってしまったのだろうか。
悲しい気持ちで亜夜加さんがメンバーの過ごした合宿所を出ると、
ふと、目の前に川井くんが立っていた。

「ごめん・・・。こんなところで待ち伏せして・・・。
でも、この年の最後にどうしても亜夜加に会いたかったんだ」

亜夜加さんは首を振った。
ごめんって言いたいのは私の方だ。
川井くんをトップアイドルにする、面倒を見る、なんて啖呵切って、
絶対トップになれるよって約束したのに・・・
ホント、私はプロデューサー失格だ。
自分を責める亜夜加さんに、川井くんはポツリと言った。

「ねえ、亜夜加と僕の絆って・・・仕事だけなのかな・・・」
「え?」

亜夜加さんはハッと顔をあげ、川井くんを見つめた。
その視線に答えるように、川井くんも亜夜加さんを見つめていた。

「この2年間、一緒に過ごしてきて・・・
僕はそうじゃないと、信じているけど・・・」

そうして長い沈黙の後、ついに彼は言った。

「つまり・・・僕は・・・
亜夜加が好きだよ!」

その言葉をきっかけに、川井くんの想いは堰を切ったように溢れ出した。

「亜夜加みたいに強くて頑張りやの人、好きにならずにはいられないよ!
仕事ではこんな結果しか残せなかったけど・・・

僕、もう少し亜夜加のそばにいて・・・亜夜加のために何かしてあげたい!
・・・亜夜加がよかったら・・・だけど・・・」

最後の言葉は消え入りそうだった。
けれど。
その言葉は、その想いは−
言葉にならない程、嬉しくて。
亜夜加さんは胸が熱くなった。
瞳には涙が溢れた。
それでも、彼女は微笑みながら答えた。

「もちろん、いいに決まってるわ!」

それを聞いた川井くんは瞳を輝かせ、
初めて亜夜加さんを抱き寄せた。

「あ、ありがとう!僕、君のこと信じてた!
だけど、いざとなると不安で・・・今もすごくキンチョーしてたんだよ。
OKしてくれてありがとう!僕、これからは君のために生きるよ」



               ◇  ◇  ◇



9、君と僕の時間


あれから数ヶ月経った頃−

亜夜加さんのもとに、以前プロデュースしたメンバーからの手紙が届いていた。
彼らはそれぞれ新たな道を歩んでいるらしい。
一人は新しいメンバーとバンドを組んでもうすぐメジャーデビューするらしく、
もう一人は相変わらずトップアイドルとして活躍しているという。
そんな近況報告が記されていた。

けれど、その中に川井くんの手紙はない。
それはそうだろう。
彼は今も亜夜加さんの隣にいるのだから。

「やっぱり僕はアイドルよりも、
好きな人のためだけに働くのがあっているみたいだね。
スカウトをOKしたのも、今考えると君の力になりたいと思ったからだよ。
僕−今すっごく幸せ。この幸せを大事にしたい。
僕、君の言うことなら何でも聞いてあげる
そして、僕も言いたいことは君にはっきりと言うよ。
そうやって、二人でたくさんたくさん話し合って、
ここをもっと素敵で居心地にいい場所にしていこうよ。
僕たちがずっと幸せの中にいられるように・・・ね」

そういう川井くんは今、
かわいいエプロンを身につけフライパンを片手に
嬉々として亜夜加さんのために料理の腕を奮っている。
一方、亜夜加さんは後ろのテーブルでワクワクしながら、
川井くんの手料理を待っていた。





・・・二人の新しい時間は今、始まったばかりである。





Fin


《あとがき》
お疲れ様でした。この話はゲームのプレイに沿った話ですので、知っている方は物足りないかもしれませんが、知らない方が「やってみたいな」と思ってくれるといいですね。
ちなみに今回はアイドルになれなかった方のEDでしたが、これは私の趣味です。この時の川井くんのセリフが好きだったのでv

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