「こちらが謁見の間でございます。 すでに守護聖さま方もそろっておいでです。 女王陛下に失礼のなきように」 あれから三日後・・・ セイランはあと二人の教官とともにこの宮殿に呼ばれ、 この謁見の間に案内されてきたのである。 この扉の向こうに、この宇宙を司る女王陛下がいるという。 権力者に対して別段媚びへつらう必要もないと思うが、 この広大な宇宙をたった一人で支えている女王陛下に限っていえば、興味の度が違う。 全くの未知の存在であったし、聞くところによれば新しく即位した女王は自分と変わらぬ年だという。 ただでさえ、好奇心旺盛な芸術家のセイランにとっては、 関心を持って当然の対象であることには違いない。 それだけで教官を引き受けたといっても過言ではないだろう。 不謹慎と言われるかも知れないが・・・ と、我知らず笑いがもれる。 (・・・もしかして、緊張している?・・・この僕が?) しかし、扉が開かれた瞬間―― その緊張も一遍に吹き飛んでしまった。 彼の視界に真っ先に飛び込んできたのは、 庭園で出会った金色の少女――― 傍らに守護聖と思われる九人の若者を従え、 正装して冠を戴く彼女は気高く美しかった。 そして何よりその背には、金色の――大きな翼があったのだ。 (ああ・・・!) セイランは感動にうち震えた。 ――女王陛下―― 彼女こそが、この宇宙を導く者。 あの小さな肩に幾千幾万もの星々の運命が委ねられているのだ。 一瞬・・・まるで心が宇宙の彼方に飛んでいってしまったような感覚に襲われたセイランだったが、 その一声で我に返った。 「また・・・会ったわね。セイランv」 あの日と変わらぬ温かい笑みを浮かべた少女に セイランは今度こそ笑いをこらえることが出来なかった。 「くっ・・くくく・・・あ・・はははははっ・・・」 突然笑い出したセイランに、 周囲はギョッとして止めようとしたが、彼は構わず笑い続けた。 (完敗だよ・・・女王陛下) ◇ ◇ ◇ あの謁見の日からセイランは何かと話題にされるようになったが、 それは彼の不遜な態度も多少原因があったことだろう。 最も彼にしてみれば、決して思い上がっているわけではないのだが、 あえて否定しないところが問題なのだと年上の同僚などはぼやいていた。 そんな彼だが、珍しく他人と穏やかに時間を過ごすことがあった。 芸術を愛する者どうしといったところだろうか、 セイランが今テーブルを共にしているのは、水の守護聖であるリュミエールであった。 「風が・・・出てきましたね」 「・・・夕暮れのこの時間になると、ある星を思い出します」 「それは?あなたの故郷の星ですか、セイラン。こことよく似ているのですか?」 リュミエールに問われて 彼は軽く首を振った。 「とんでもない。 年中霧に閉ざされた寒い星でしたよ」 と、そこで息をつき、あらためて視線を周りに移した。 「この聖地は美しい・・・。 それは決して目に見える表面的なものではなく華やいだ生命力に満ちています」 「ええ・・・」 「これは女王陛下ご自身の性格も反映されているのでしょうね。 常識を超えて、エネルギッシュで・・・」 そう言ってくすくすと笑いながら セイランは夢見るように呟いた。 「なんていうか・・・もう・・最高だな・・」 「!」 そのほめ言葉にリュミエールが絶句していると、 いつのまにか笑いを止めたセイランが彼をじっと見つめていた。 「・・・羨ましいですね」 「え?」 「女王候補時代の女王陛下をよくご存知のあなた方が羨ましいって言ったんですよ。 そして・・・これからも一緒だ」 「セイラン・・・!?」 何かを言いかけたリュミエールを遮るように セイランはゆっくりと立ち上がった。 「ああ・・空が赤く染まってゆく・・・。本当に美しい光景だ。 もっと早くここへ来たかったな・・・」 そう言うと、彼はリュミエールを残して一人微笑みながら去っていった。 そこに君がいる幸福 |
FIN |