今度はいつこんな時間がもてるんだろう?
今日は無理やり連れ出しちゃったけど、たびたびは無理だよね・・・

そんなことを思いながら、いつのまにか日が翳ってきたことに気づき、
マルセルは慌ててアンジェリークを起こしはじめた。

「アンジェリーク、起きて。風邪・・・ひいちゃうよ」
「うう・・・ん」
「ほら、アンジェリークってば」

だが、疲れがとれないのかなかなか目を覚まさない。

「仕方がないなあ、もう」

マルセルはため息をつきながら、
心ならずもアンジェリークを背負うはめになったのである。

「よ・・・いしょっと」

なんとか自分の方へ体重をのせて、
アンジェリークを背負ったマルセルはよろよろと歩き出した。
ランディやオスカーのように剣はできなくても、
成長したマルセルは昔ほど非力な子供ではない。
何より、アンジェリークをこのままにしておけない。
ここはなんとしても自分の力で彼女を送り届けたかった。
そんなことを思いながら、必死に歩いていたマルセルだったが・・・

「・・う・・うん・・・」
「アンジェリーク?」

背中で身じろぎをする気配を察し、立ち止まって声をかけた。

「アンジェリーク・・・起きたの?」
「・・・え?・・・・・マ・・ルセル・・・さま・・・?」


アンジェリークの視点が定まるにつれ、彼女の頬は真っ赤になっていった。

「マ、マルセルさま!?わ、私・・・っ、どうしてっ?!
ごっ、ごめんなさい。すぐに降りますからっ」
「え?あ、ちょっと、アンジェリーク!
急に動いたら危ないって・・わ、ちょっと、ああっ」
「え?・・キャーッッ!」

バランスが崩れて悲鳴とともに二人は地面に倒れこんだ。

「いたた・・・だ、大丈夫? アンジェリーク」

アンジェリークの体を支えながら、マルセルがとっさに尋ねると
アンジェリークが泣きそうな顔で覗き込んでいた。

「マ、マルセルさまは?!どこか打ちませんでした?
ごめんなさい、私ったら・・・」
「何でもないよ、僕は大丈夫だから」

マルセルが笑みを見せながら起き上がると、
アンジェリークはホッと胸をなでおろしたが、
なぜだかうつむいたままそれ以上動こうとしなかった。

「アンジェリーク・・・?どうしたの?あ、もしかして・・・どこか痛めたの?
ごめんね。僕がもっとアンジェリークをちゃんと支えてあげればよかったんだけど・・・」

マルセルがそう言いかけると、
うなだれていたアンジェリークは途端に首を振った。

「違うんです!私がいけないんです・・・」
「え?」
「私がちゃんと起きてたら、マルセルさまにこんな迷惑かけなかったのに・・・」
「そんなこと、気にしなくてもいいのに」
「いいえ、眠りこけるなんて・・・最低です・・・しかもマルセルさまに背負って運んでもらうなんて・・・・私・・・今は大事な時なのに・・・こんなことじゃダメだわ・・・」

そう言って、アンジェリークは顔をおおってしまった。
手の隙間からかすかに嗚咽がもれる。

「アンジェリーク・・・」

普段ならこんなコトで泣くアンジェリークではない。
笑って「ごめんなさい」で済むはずだった。
それが、こんな風に泣き出すなんて、よほど心に負担がかかっていたのだろう。

マルセルは思わずアンジェリークを抱きしめる。

「アンジェリーク、自分を責めちゃダメだよ!
君、言ったよね?今日は女王だってコト忘れようって。
だから無理することなんかないんだよ?」
「でも・・私がしっかりしてないと・・・」
「何のために僕たちがいると思ってるの?
君はひとりじゃないんだ。もっと頼っていいんだよ」
「マルセルさま・・・・」

涙でぬれる睫毛が綺麗だった。
マルセルは再び口を開く。

「・・・あのね、アンジェリーク。
僕は君のためだったら何でもしてあげたいんだ。
君が女王だからってわけじゃないよ。
アンジェリークだから、僕は君の力になりたいんだ。

僕は他のみんなと比べるとまだまだ頼りないだろうけど、
その気持ちは誰にも負けない。
君にとって僕はただの守護聖っていうならそれでもかまわない。
友達だっていうなら・・・
僕は君の一番の友達でいたい。

だからね。疲れたら僕にもたれて欲しいんだ。
つらい時も悲しい時も。
そうしたら、僕は君を今よりも守ってあげられる・・・
そんな気がするから・・・」

「それって・・・ダメかな・・・?」

その言葉にアンジェリークは首を振った。

「ホントに?」

マルセルが覗き込むように問うと、
アンジェリークは涙をぬぐいながらうなづいた。

「じゃあ、帰ろう?
きっとみんな首を長くして待ってるよ」

語りながら自分は本当にアンジェリークが好きなんだと思った。
ホントは友達なんかイヤだって。
僕だけを見てって言いたかった。
でも、それは・・・自分の気持ちを押し付けるだけ・・・
マルセルは目頭が熱くなるのをぐっとこらえた。


「あの・・・マルセルさま」

別れ際アンジェリークが口ごもるように言った。

「なあに?アンジェリーク」
「また・・・私にこんな時間を・・・作ってくれますか?」
「も・・・もちろん!」
「じゃあ、約束・・・」
「分かった。約束、だね。指きりでもする?」
「指きり・・・ですか?」
「じゃなかったら、う〜ん、と何がいいかな。
オスカーさまだったら『この剣にかけて』っていうんだろうけど・・・
そんな歯の浮くようなこと言えないしね」

冗談めかしてマルセルがそう言うと、
アンジェリークは声をたてて笑った。
もう、涙は見えない。
そんなアンジェリークをマルセルは眩しそうに見つめた。

「じゃあ、指きりでいいですv」

アンジェリークが手を差し出すと
その手にマルセルの手が触れた。

「約束、だよ?」

そうして二人は指をからませて、
お互い顔を見合わせるとふふvと笑った。


それはまるで神聖な儀式のようで・・・

マルセルは心の中でそっとつぶやく。

(約束だよ?アンジェリーク
僕の言葉を忘れないで)


アンジェリークが去ったあとも、
マルセルは交わした指をいつまでも見つめていた。










         どうか君の心に
              大きな虹がかかりますように・・・






FIN






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