〜心に架ける虹〜




「見てみて! あそこに小鳥がいるよ」

少年が指を指すと、傍らにいた少女は目をこらした。

「え?どこ?」
「ほら、あの一番右の葉っぱが2枚重なっているところに、止まっているでしょう?」

しばらくして、少女は歓声をあげた。

「あ、ホントだ!可愛い〜」

そんな少女の笑顔を見ながら、少年もまた「ふふ」と笑った。

「なんですか?」
「ううん、別に。ここへ連れてきてよかったなって思って・・・」

少年がそう言うと、少女はにっこりと笑った。

「ホントですね、どうもありがとうございますv マルセルさま」
「そんな・・・陛下のためだったら、僕はいつだって・・・」
「も〜!マルセルさま。、今日は昔のように過ごすっていう約束だったでしょう。
だから『陛下』じゃなくて『アンジェリーク』、ね?」
「あ、うん。そう・・・だったね。じゃあ、アンジェリーク」
「はい、マルセルさま」


木漏れ日の中で・・・
はにかみながら微笑む二人は、束の間の安らぎを感じていた。


      ◇      ◇      ◇


ここはアルカディア。
未来の新宇宙の一部である大地。
どういったわけでここに飛ばされてきたのか分からないが、金の髪の女王とその補佐官、守護聖たち、そして新宇宙の女王と補佐官、その協力者たちが、再び同じ場所に集うこととなった。
彼らはその未知なる大地、アルカディアを救うべく動き出したのだが・・・
そんなある日のことである。

「あのう・・・陛下。よかったら今度二人でピクニックに行きませんか?」

女王の執務室に来るや、緑の守護聖が発したその言葉に、金の髪の女王アンジェリークは一瞬キョトンとした。
が、マルセルの顔は至極まじめで、
アンジェリークは何事か考えるとにっこりとうなづいた。

「ええ、行きましょう。マルセル」

かくして、二人は小川の流れる林へと出かけることとなったのである。



      ◇   ◇    ◇



「あ〜、お腹いっぱいになっちゃったv」
「お日様の下で食べる食事ってどうしてこんなにおいしいんだろうね。ううん、アンジェリークと一緒だからおいしいのかな」
「ふふv・・・そうですね。私もマルセルさまと一緒だから楽しいのかも。
ほんとにこんな時間は久しぶり・・・」

言いながら、アンジェリークは女王らしからぬ大きなあくびをした。
それを見てマルセルは笑う。

「お腹がふくれると眠くなっちゃうよね」
「ええ」
「少し・・・眠る?」
「え?」
「まだ日は高いし。この木陰で眠ったらどうかな」
「で、でもマルセルさまは?」
「僕は・・・君のそばにいてあげる。
大丈夫、風邪をひかないようにみててあげるから。
なんならこの上着を貸すよ」

言いながら、マルセルは着ていた上着を脱いで、アンジェリークの肩にかける。

「あ、ありがとうございます・・・」

恥ずかしげに小さくつぶやくその声に、
マルセルは微笑んだ。

「うん、いいから。おやすみ」
「じゃあ、少しだけ。おやすみなさい」

そう言って、アンジェリークが遠慮がちに横になると、
マルセルはそっとその傍らに座った。

しばらくして・・・
それからまもなく、すうすうと心地よい寝息がマルセルの耳に聞こえてきた。

(やっぱり疲れてたんだ・・・)

アンジェリークの深い眠りを見ながら、
マルセルはひざをかかえる。

この土地に飛ばされて、みながアルカディアを救うべく協力して動き出したはいいけれど、要となったのはやっぱりここにいるアンジェリークだった。

次元の異なる空間に存在するには、現女王の並々ならぬ力が必要で、そのため、決して表には出さなかったけれど、彼女の負担は想像以上に大きいものだったに違いない。
それはアルカディアの創世の女王こと、新宇宙のコレットが果たすべき使命とはまた別の責務だった。

口には出せない、けれど日増しに疲労の影が濃くなってゆく。
そんな彼女を見てられなかった。
だからこそ、マルセルはピクニックに誘ったのだ。
誰にも気兼ねをせず、癒せる時間を彼女に作ってあげたかった。

マルセルはため息をついた。

(アンジェリークは宇宙の女王・・・
誰もが困惑するような事態にあっても、常に頂点にたたなければいけない立場なんだから、大変だよね・・・

僕はまだ他の守護聖には到底及ばないけど、
少しでも力になってあげたいとずっと思ってた・・・
けど・・・僕じゃダメなのかな・・・)

と、そこでマルセルは首を振る。

(ううん、君を想う気持ちは誰にも負けないつもりだよ。
だって、どんなに君が隠していても
たとえ誰も気が付かなくても、僕だけは分かるもの。
ずっとずっと見ていた君だから。
大切な・・・僕のアンジェリーク・・・)


「アンジェリーク・・・?」

そっと口に出してみる。
今では面と向かって言えない名前。

「アンジェリーク・・・」

言葉にするだけで、どうしてこんな気分になるんだろう?
泣きたいくらい幸せで、それでいて切ない・・・


つややかな金の髪にそっと触れて、もう一度言ってみる。
まるで誓いの言葉のように。











「アンジェリーク、君が好きだよ・・・」





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