「ど、どうしたの?! アンジェリーク」
「えへv マルセルさまをお待ちしてたんです」
「え? ぼ、僕を?!」
「はい。お昼、一緒にどうかと思って・・・」

そう言いながらアンジェリークは手に視線を落とす。
見ると、彼女の手には大きなバスケットが握られていて・・・

「それ・・・もしかして・・・」
「はい、お弁当です。一緒に食べませんか?」

にっこり笑ってアンジェリークが答えると、
マルセルは気が抜けたように、アンジェリークの肩に両腕を回した。

「マ、マルセルさま?!」

驚くアンジェリークに、マルセルは肩越しにつぶやいた。

「ごめん・・・アンジェリーク・・・。
僕、お腹すきすぎて・・・・・・もう死にそう・・・」




       ◇       ◇        ◇




「えぇ?これアンジェリークが作ってくれたの?!」

あれから二人は庭園の芝生の上で仲良くお弁当を広げていたが、
マルセルは空腹も手伝って、あっという間にそれをたいらげた。

「は、はい。でも私、不器用で・・・
お世話係のローラさんに手伝ってもらってなんとか・・・
あの・・・お口にあいました・・・?」
「うん!も、すっごく美味しかったよ!!アンジェリーク」
「ああ、よかったぁ・・・・!」

お世辞とは思えぬマルセルの喜びように、
アンジェリークはホッと胸をなでおろした。

「でも、びっくりしたなぁ、まさかアンジェが待っててくれるなんて。
今朝のことがあったから、アンジェはきっと僕のコトなんか呆れてるだろうなって思ってたから・・・」

マルセルがそう言うと、アンジェリークは心外そうに反論した。

「そんなこと! マルセルさまは私のために花を届けて下さったんですから・・・呆れるなんて・・・絶対ありえません!」
「・・・・・ありがとう、アンジェリーク」

マルセルは心があったかくなるのを感じながら、
ふとアンジェリークの手が傷だらけなのに気付いた。

「手っ、見せて!」
「マルセルさま?」

マルセルはアンジェリークの手をとると、まじまじと見つめた。
白くて綺麗な指には、あちこち切り傷ややけどのあとがあって、絆創膏も何箇所か張られている。

「この傷・・・」
「あ、こ、これは・・・そ、そのぅ・・・実は謙遜でもなんでもなくて、ホントに私不器用で・・・お弁当を作ろうって思いたったのはいいんですけど、ドジばっかりやって・・・かえってローラさんに迷惑をかけてしまったんです。・・・ダメですね、私ったら・・・」

アンジェりークは恥ずかしそうにその手を隠そうとしたが、
マルセルは傷ついた指を凝視したままなかなか手を離さなかった。

「あ、あの・・・マルセルさま・・・?」

アンジェリークの声に我に返ると、
マルセルは真っ赤になって慌てて手を離した。

「え、ああ! ご、ごめん! アンジェリーク」
「いえ・・・でも、どうかしましたか?」
「うん・・・僕、僕・・・今ね・・・・すご〜く感動してた」
「え?」
「だって・・・アンジェリークが僕のために一生懸命お弁当を作ってくれたんだって思ったら、すごくすごく・・・嬉しかったんだ」
「マルセルさま・・・」
「・・・でも、それってヘンかもしれない」
「?・・・どうしてですか?」

アンジェリークが問いかけると、
マルセルはちょっとうつむきながら小声で言った。

「だって僕・・・君が傷だらけなのに嬉しく思ったんだよ?
ヘンじゃない?」

その言葉にアンジェリークは、軽く噴出した。

「ヘンじゃないですよ。私も同じですもん」
「え?アンジェリークも?」

マルセルが顔をあげると、アンジェリークはにっこりと笑った。

「はい。例えばですね・・・
マルセルさまはいつも私に咲いたばかりの花を届けて下さいますよね?
そのたびに私・・・嬉しい反面ずっと思ってたんです。
マルセルさま、こんなに朝早くから大変だなって。大丈夫かなって。
今日だって・・マルセルさまにとっては散々な1日だったかもしれませんけど、でも私は、朝食よりも、会議よりも、私のことを優先して来てくれたんだって思ったら・・・すっごく嬉しかったんです。
だから、私もマルセルさまのために何かできないかなってあれこれ考えて、それでお弁当を作ろうって思ったんですよ」


アンジェリークの告白にマルセルはあらためて目を丸くした。

「そ、そうなんだ・・・・」
「そうですよv」
「でも、アンジェリーク。言っとくけど僕は全然大変じゃないからね。
僕が好きでやってることなんだから」
「私もです。私が好きでやってることですから・・・マルセルさまも気にしないで下さいね」

それは・・・自己満足なようでそうではない。
お互いがお互いのことを思いあってのこと・・・
決して強制されるものでもなく、ましてや見返りを期待するものでもない。

「不思議だね・・・
僕たち・・・似たようなことを考えてたんだ」

マルセルは感心したようにつぶやく。

そして、アンジェリークの頬がほんのり赤く染まるのを見ながら、
マルセルは再び嬉しそうに口を開いた。

「ねえ、アンジェリーク・・・
僕・・・少しだけ分かった気がするよ」
「何がですか??」

アンジェリークが軽く首をかしげると、
マルセルは「ふふv」と笑いながら、
まるで秘密を打ち明けるように、アンジェリークの耳にそっとささやいた。










       「あのね、アンジェリーク。
        きっと・・・これが『両思い』ってことなんだねv」









FIN




BACK  NEXT