両思い |
丹精こめて育てた薔薇の花たち・・・ 今日は君たちを運んでいくよ。 1本1本丁寧に摘んで 綺麗な花束にしてあげようね。 そうして、見せて欲しいんだ。 君たちみたいな可愛い笑顔を。 美しい瞳が大きく見開いていくさまを。 そうして、ほんのり赤く染まる頬を。 僕に見せて欲しいんだ。 薔薇の花たち・・・ みんな協力してくれるよね。 だって僕は 毎日アンジェリークの笑顔が見たいんだもの。 ◇ ◇ ◇ トントン・・・ 鳥の声のさえずりが聞こえ始める頃、 金の髪の女王候補の部屋に花の使者が訪れる。 アンジェリークは眠い眼をこすりながらも慌てて窓の扉を開く。 朝の光とともに現れたのは、 同じく金の髪に紫の瞳の緑の守護聖。 「おはよう、アンジェリーク」 「おはようございます、マルセルさま」 何度会っても起きがけに顔をあわすのはなんだかドキドキしてしまう。 いったい今日で何日目? 挨拶をしながらアンジェリークはふと思う。 それは決して迷惑に思う心ではなく とても嬉しいけれど、 でもちょっぴり戸惑いを隠せない微妙な気持ち。 いいのかな? こんなコトをしてもらって・・・ マルセルさまも大変じゃないのかな? 無理をしてなければいいけれど・・・ そんなアンジェリークの心に気付いているのかいないのか 「今日、一番に咲いた朝摘みのバラだよv 君に見てもらいたくって持ってきたんだ」 マルセルはいつものようににっこりと笑いながら 花束をアンジェリークに手渡した。 つややかなピンクのバラはまるで少女のように可愛くて・・・ 「まあ!なんて可愛い薔薇なの!? ありがとうございます、マルセルさま。 さっそくお部屋に飾らせていただきますねv」 思ったとおり、アンジェリークは瞳を輝かせ とびきりの笑顔を見せて マルセルをドキリとさせた。 そう、この笑顔を見るためだったら 僕は毎日だって来てあげる。 マルセルは眩しそうにアンジェリークを見つめた。 と、その時。 (ぐ・ぐぐぐぅ〜〜〜) 突然下の方からくぐもるような音がして、二人は思わず目を合わせる。 瞬間、マルセルはお腹を押さえて真っ赤になった。 (しまった・・・今朝は朝食食べてなかったんだ・・・!!!) 思わず目の前が真っ暗になるマルセル。 (よりによってこんな時に・・・雰囲気、ぶち壊しだぁ・・・ ごめんね、薔薇の花たち・・・・せっかく手伝ってもらったのに・・・) 肩を落とすマルセルに、アンジェリークは慌てて声をかける。 「あ、あのう・・・マルセルさま よかったら、その・・・朝食をご一緒にいかがですか? 今からなら支度も間に合うと思うんですけど・・・」 だが、その声に我にかえったマルセルは、 「ああっ!!」 またもや思い出したのだ。 今度はみるみるうちに顔色が青くなってゆく。 「うっわ〜、どうしよう〜〜!!今日は朝から会議があったんだ〜!! どどど、ど〜しよう! またジュリアスさまに怒られちゃうよ〜っ!! あわわ・・・ ご、ごめんね!! アンジェリーク!! また後でねっ」 「あっ、マルセルさま?!」 アンジェリークが呼び止めるのも聞かず、 マルセルはクルリときびすを返すと脱兎のごとく門へと駆け出した。 そして見る見るうちに、その姿は小さくなってゆく。 「・・・大丈夫かなぁ・・・マルセルさま・・・」 残されたアンジェリークは、しばらく心配そうに外を見つめていたが、 何事かを思いつくと、慌てて部屋を飛び出した。 ◇ ◇ ◇ 「はあ〜、お腹すいたぁ・・・もうお昼だよ、とほほ〜」 宮殿の回廊で会議の終わったばかりのマルセルは、 お腹を押さえながらよろよろと歩いていた。 さすがに会議には間に合ったが、その間お腹の音が気になって気になって、ろくに内容も覚えていないという有様だった。 けれど、(ジュリアスさまのいうところの)宇宙にとって極めて重要かつ神聖な守護聖会議の真っ最中に、気の抜けるような音が響くのだけは、なんとしても避けたかった。 というより、想像するだけでジュリアスさまの視線が恐ろしかった。 そのためマルセルは、会議中全神経を集中してお腹に力を入れて、音を押さえ込んでいたのだ。 もっとも、あの守護聖メンバーが集まって、静寂な会議が運行されるはずはなかったのだが、それはまた別の話で、とにかくマルセルはなんとか恥をかかずに会議を終えることができたのだ。 (恥・・・・) その言葉を脳裏に浮かべ、マルセルはガックリと肩をおとした。 今朝の醜態を思い出したからだ。 (あ〜あ、きっとアンジェリークは呆れただろうな・・・) そう思うと、マルセルの心はどんより曇る。 かといって過ぎてしまったことは仕方がない。 どうしても今日、アンジェリークにあの薔薇を届けたかったのだから。 ふう、とため息をつくとマルセルは、再びお腹に手をやった。 さすがにピークも過ぎたのか、お腹の音も静かになったが、それでもこのまま午後を過ごすのは辛かった。 「カフェテラスで何か食べてかないと・・・」 そうつぶやきながら、扉の方に視線をやると 宮殿の出入り口で誰かが自分に向かって手を振っているのが見えた。 「え、アンジェリーク!?」 その正体を知って、慌ててマルセルは駆け寄った。 |