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左近〜受難の日々〜


俺は「疾風の左近」。
一応、二枚目で通っているわけだが、最近俺は悩んでいる。

俺は綾之介に、ホの字なんだが(阿呆のホじゃない)
まあ、恋には悩みがつきものだろうが・・・
俺の悩みは少し違うんだなぁ・・・


              ◇   ◇   ◇


綾之介・・・本当の名は「綾女」というれっきとした女だ。
その彼女がなぜ男の名前を使い、男装をしているのか。
それはまあ、かいつまんで話すと綾女の里は−いや、俺、龍馬たちの住んでいた忍の里は、すべて魔人織田信長の妖怪によって滅ぼされた。
その時綾女の兄・進之介は命を賭して妹を救い、そうして彼女がただ一人の生き残りとなった。
だが、以来綾女は復讐のために女を捨てたという。
俺が彼女に出会った時はすでに「綾之介」と名乗っていたのだ。
長い髪を束ね、忍の戦装束に身を包んだその姿は見ていて痛々しくもあったが、
いくら男装をしているからとはいえ、うら若い女をどうして男と信じることができるだろう。
いや、確かに騙されていた奴もいるにはいるが・・・俺の目にはずっと女として映っていた。
そしていつしか惹かれていったのである。
だが、それを正直に言えば彼女を怒らせてしまうだろう。
なぜなら、彼女は男として生きることが自らの支えにしていただろうから。
だから、俺はずっと黙っていたのだ。この戦いが終わるその時まで。


とまあ・・・前置きが長くなってしまったが、
とにかく俺が綾之介が好きだということは分かってもらえただろう。
悔しいが片思いでもあることも否めない。俺の気持ちさえ知らないのだから。
だが、今はそんなことより気になることができたのだ。
・・・というのも、数日前から俺が何気に綾之介に近づくと何かが起きるのだ。
何かって?そうだな、例えば綾之介が俺を呼んでいるとしよう。



「おーい、左近。早く来いよー!」

手を振る綾之介に俺は嬉々として答える。

「ああ、今行くー」

その途端、俺は何かに足をとられ、ずっこけてしまった。・・・二枚目のはずの俺がだ。

「左近、何一人で遊んでるんだよ」

こけた痛みもあったが、心配の声すらない綾之介の声に俺の心はもっと痛かった。



そりゃあ、最初は偶然だと思ったさ。
しかし、気をとりなおして俺が綾之介に近づこうとすると、


ひゅるるる・・・グシャ!!


音をたててて俺の頭を直撃したのは植木鉢だった。
これが偶然と言えようか。(いや、言えない)

「なんでそんなものが上から落ちてくるんだろう?」

俺は血を流しながら、ちっとも心配していない綾之介の言葉をわびしく聞いていた。



しかし、ある日とうとう俺はその諸悪の根源をつきとめたのだ!
それは綾之介が一人で花を摘んでいたときのことだ。
彼女の隣には誰もいないはずなのに、俺の目にはフワフワと浮かぶ影が見えた。
綾之介に寄り添う影…それはなんと、「桔梗」だったのだ!!

「嘘だろ、おい・・・・」

これが俺の正直な感想だった。
なぜなら、桔梗はすでにこの世の者ではなかったから。
つまりは霊ということになるのだろうか。
冗談じゃない!!霊ごときに俺の行動を妨害されてたまるか。
正体を知ったからには、早く始末をつけにゃこっちの体がもたん。
俺は足早に仲間の龍馬の元へ急いだ。

「龍馬! 龍馬はいるか!」
「呼んだか? 左近」
「龍馬!!」

俺は龍馬の顔をみると、いきなり掴みかかった。

「おい、よく聞け!龍馬! 綾之介に桔梗が憑いてるぞ!!
 お前の妹だろ?! なんとかしろ!!」

だが、龍馬は俺の話を信じていないのか、黙ったままだった。

「聞いてんのか?桔梗だ、桔梗!!」

念を押すと、龍馬はようやくクチを開いた。

「・・・左近。人の妹を呼び捨てにしてほしくないんじゃが・・・」
「そんなコト言ってんじゃねーっ!!」

思わず叫んでしまった俺だが、ハタと気づいた。

「おい、龍馬。おまえ…驚いてないな?」
「ぐ〜〜〜〜」
「寝るんじゃな〜いッ!! あ、お前もしかして知ってたんだろ!!
 なんで、俺に…いや、綾之介に知らせなかったんだ?!」

だが、俺の問いに龍馬は答えなかった。
代わりにその眼差しは遠いところを見ていた。

「覚えておるかのう。桔梗は葉隠れの里で…綾之介殿をかばって死んだんじゃ…
 知ってのとおり桔梗は綾之介殿を慕っておった…」

そう…だった。
龍馬の言葉に俺はハッとしてその時のことを思い出していた。

桔梗は龍馬とは似ても似つかぬ可憐な風情の少女だった。
そして彼女は密かに(といってもバレバレだったが)綾之介に心惹かれていた。
もっとも桔梗は綾之介を男と信じきっていたようだが…
少なくとも戦いの似合う少女ではなかった。
だが、里を襲撃された日、彼女はその身を挺して綾之介の命を救ったのだ。
そうして静かに息を引き取った。綾之介に見守られながら…

「自分の命にかえて愛する者を救ったことに、桔梗は満足していることじゃろう。
 だが、その恋はあまりにも短すぎた…
 わしは兄として…桔梗に『消えろ』とはとても…
 せめてもうしばらく成仏するまで…と思ってたんじゃ」
「・・・・・」
「それがお前に迷惑をかけていたとは…すまん!!」

大きな体を震わせながら謝る龍馬に、俺はもはや何も言えなかった。

「分かった…。お前の気持ちも考えずに…悪かったな」

俺はそれだけ言って龍馬から離れた。
たしかに龍馬にとってはたった一人の可愛い妹だ。
ああ、俺はなんて大人げなかったんだろう!!
目先のコトばかり気にしていた自分が恥ずかしくなった。

(ま、桔梗のコトは何とかなるさ。あっちは霊だし。
 もうしばらくみてやるか…成仏するまでの辛抱さっ)

そう悟った俺だった。



              ◇   ◇   ◇



とはいうものの!・・・実際はそう悠長なコトを言ってる場合じゃなかったのだ。
何せ俺は常に綾之介と一定の距離を保たねばならなかったし(ストレスたまる〜)

「あ、綾之介。肩にゴミが・・・」

ふと気が緩んで近づいてしまった時にゃ

ザバァーーーーーーーーーッ!!

タライをひっくり返したような水が落ちてくる有様。
明らかに奴の仕業はエスカレートしている!!
舌を出してあかんべえをする桔梗を見て俺は切れた。
もう、怒った!!
何が可哀相だ! こっちの身にもなってみろ! 
俺はまだ綾之介に何もしてないぞ! こーなったら綾之介に言ってやる!!
お前には霊が憑いてるんだってな!! そいでもって除霊さっ!

俺は怒りにまかせて綾之介の元へ走った。

「おい!! 綾之介!」
「なんだい? 左近。マジな顔してさ」

人の気も知らんと、きょとんとする綾之介にも俺は腹が立った。

「いいか、綾之介。お前にはな、き・・・・」
「き?」

桔梗が憑いてるんだぞ!!
思いっきりそう言おうとした。
だが。
綾之介の傍らに立つ桔梗を見て俺は言葉を失った。
桔梗は今までの可愛げのない小娘ではなく、綾之介を慕う一人の少女に返っていた。
そう、俺を見つめながらポロポロと涙を流しているではないか。

桔梗!!・・・お前・・・

俺の脳裏に先日の龍馬の言葉が蘇った。

『あまりにも短かすぎる恋じゃった…』

自慢じゃないが俺は女の涙に弱い。
しかも綾之介を慕う桔梗の気持ちも分からないわけじゃなかった。
だから・・・

「左近?」

急に黙り込んだ俺の顔を、綾之介は怪訝そうに覗き込んだ。

「あ・・・ああ、わりぃ。なんでもない」
「左近?!」
「じゃあな!!」

俺は踵を返しながらつぶやいた。
(ちぇっ…嬉しそうな顔しやがって…)
それは俺の言葉を聞いた瞬間桔梗が見せた顔。だが、

「?・・・何しにきたんだ、あいつは。
 ねえ、桔梗さん? …アレ、何泣いてんの?」

などと背後で綾之介が言っていたのを俺は知らなかった。



            ◇    ◇    ◇



あれ以来、桔梗は俺に対して柔軟な姿勢を取るようになったように思う。
もっとも、いたずらは相変わらずだったが、水や植木鉢が落ちることはなく
せいぜい紙くず程度だった。
それはそれでありがたいのだが、(ってちっともありがたくはないが)
桔梗は思う存分綾之介のそばにいられて嬉しそうだ。
それを俺は羨ましそうに、いや忌々しげに見つめているのだった。

「なごやかじゃの〜v」

桔梗と綾之介の様子を眺めながら、傍らで龍馬が言った。
何のんきなコトを言ってるんだか…

「おい、龍馬! 桔梗はホントに成仏するんだろーな!!」

俺が問い詰めると、龍馬は言った。

「そのことじゃが…
 まさか桔梗は綾之介殿の『守護霊』になったなんてコトは…」
「な・・・にぃ〜〜〜〜!!!」

おい、もしそうだったら、俺はいったいどうなるんだ?!
ずっとずっと綾之介に近づけないってコトなのか?!
誰かなんとか言ってくれ〜〜〜〜!!
 

                                                                                          

おしまい


《あとがき》
一応、キリリクとしてUPしたものですが〜、実はこの話は「妖刀伝」が大好きだった昔、下手くそな絵で書いてた漫画が元です。それを文にした次第です。
漫画・・・といっても書いてたものが青い万年筆ですよ(笑)しかもコピー用紙に書いてたんでフニャフニャ。そんなわけで他の誰にも見せていなかったのですが、自分でも話がわりと気にいっていたので捨てられなったんですね〜(^_^;)
当時は綾之介さんにぞっこんラブだった私は綾之介さんに近づく左近に嫉妬して、かなり左近をイジめてましたね〜(3コマとかで。これまた学生ノートにて)・・・左近を好きな方、スミマセン。
感想などがありましたら、ブログのコメント欄にて、こっそり書き込みをお願いしますv


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