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花の上で、蝶とアブラムシがこんな会話をしていた。
「え?アブラムシさんて卵を産まずに、子供を産むんですか?!」 「ええ、そうなんですよ。一度に何匹も何匹も、そりゃあ大変です。 おかげで一度に大家族になるんですよ」 「それは結構なことじゃありませんか。羨ましいくらいだわ」
蝶は心底そう言った。 しかし、アブラムシの方は悲しそうに目をふせた。
「でも、それはほんのひとときのこと。あっという間に殺される運命ですから」 「殺される、ですって?!」
蝶は真っ青な顔をして口を押さえた。
「あなたにも分かるでしょう?産んだ子供のうち、何匹が無事大人になれるかを・・・」 「それは・・・ええ、たしかに。
私たちはいつも生きるか死ぬかの生活を送っているのですものね」
青ざめながら蝶は答えた。
「そう、私たちにとって何よりも大切なのは子孫を残すこと。
それなのに子供たちはあっという間に殺される。
産んでも産んでもきりがないくらい・・・」
「弱いものが生き残るためには数で対抗するしかありません。
誰かは天敵から逃れて、生き延びるかもしれない・・・
私たちはそれを願うことしか出来ませんものね」
アブラムシは何度もうなづきながら、言った。
「ええ、その通りです。
でも、なぜ私たちが卵を産まずに、子供を産むのかご存知ですか?」
その問いに蝶は首を横に振った。
「いいえ、分からないわ」
「それはね、私たちはあまりにも小さくて弱い。
だから、神様が考えてくださったんでしょうね。
変身する時間を省いてくださったのよ」
「どういう意味かしら?」
「つまりね、卵から幼虫、幼虫からサナギ、サナギから成虫・・・そんな過程を追っていたら、
私たちはあっという間に全滅してしまうでしょう。
だから、その時間を削って『産めよ、増やせよ』としてくださったんだと思うの」
「まあ! それは不思議なことですね」
感嘆する蝶にアブラムシはなおも言った。
「でもね、もっと不思議な生き物がいるのですよ」
「それは?」
「ニンゲンという生き物です」
「?」
「だって、ニンゲンには天敵がいないでしょう?
病気はともかく、少なくとも命を脅かす存在はいないと思うの。
なのに、なぜ卵を産まずに子供を産むのかしら?
なぜ増やす必要があるのかしら?
羨ましいほどたっぷりと時間があるというのに・・・」
アブラムシと蝶は互いに首をかしげた。と、その時。
「お互いに戦って共食いするんだよ、ニンゲンって奴はな・・・」
そんな声を聞いたかと思うと、
一瞬にしてアブラムシと蝶はクモに食べられてしまった。
終
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