葉っぱ
                                 


ポツポツポツポツ    ポツポツポツポツ

ほぼ、自身の色を失った山の稜線沿いに、あざやかな紅が残っている。 

黄昏時_____逢魔ヶ時________

昼間の気持ちを裏切るかのように、針のような細い雨が降り出していた。

夢か、現か・・・・・? 靄のかかった、不思議な空間。
不思議に、美しかった。




白い傘に、白い服、白い靴。長い髪だけが黒く、

夜の帳がおりかけたとき、大きな、大きな(___ここら一体では、神木として祀られている)木の前に
たっている少女がいた。


______お願い、散らないで、

                               そんなに悲しい姿を、私に見せないで__________


少女は、泣いていた。涙をださずに、泣いていた。



「何をそんなに悲しんでいるの?」

「え?だ、誰? 誰か、いるの?」 ふいに聞こえた、からかうような声。幼い少年のような、声がした。

「目の前にいるだろう?」

「え? もしかして、神木さんなの?」 そっと、木に近寄り、その太い幹に触ってみる。


違うよ。僕は君の上にある枝についた葉っぱさ。」 少女の頭の少し上にある枝には、確かに一枚、葉っぱがついていた。

「葉っぱ・・・・?

「そうだよ、君の前にいる、葉っぱさ。もうすぐ散るけどね。」

「え・・・?散っちゃうの?なんで?」 確かに、もう雨は強くなっていたし、落葉のシーズンだが、あまりにも淡々と語る彼(?)に、
少女は驚きを隠せなかった。

「なんでって。そういうきまりだからさ。理由はないよ。

それより、君はどうしてここにいるの?もう、夜だよ?」


「・・・・私、神木さんにお願いしにきたの。ジョンが、私の飼ってる犬がね、死んじゃいそうなの。
パパやママは、ジョンはもう歳だから、充分生きたんだよ、ゆっくり眠らせてあげようっていうけど、
私は嫌なの。ジョンがいなくなっちゃうなんて、絶対嫌なの。

ねぇ、葉っぱさんは、悲しくないの?まだ生きていたいって思わないの?」



雨音が少女の耳元を掠める。
幼いながらも、その強い瞳は、闇の中でもなお、輝いている。


「ねぇ、僕の色は何色だい?」



「え?」 唐突に言われ、少女は驚いたが、すぐに眼を凝らしてよく見る。

「うーん。よくわかんないけど、緑色じゃない?」


「緑色って、どんな色なの?」

「葉っぱの色だよ。」

「葉っぱはみんな緑色なの?」

「えーーー?えっと、赤いのとか黄色いのもあるよ。」

「 ねぇ、この木についている葉っぱは、みんな同じ色かい? 緑色一色なの?」

「・・・あれ?うーーん。 緑色じゃないかも・・・・ よくみたら、濃いいのとか、少し薄いのとかいろいろあるね。模様があるのも
あるよ?」

「そうだね。」 満足そうな声が聞こえた。


「僕たち葉っぱは、木に比べて、とてもとても小さく見えるだろう? 
ある人はいったよ。「葉っぱは、花と違って、実に、木に、なることができないのに・・・・ ただ散っていくだけなのに、むなしくないの」ってね。

 ぼくら葉っぱは、みんな同じように見える。色でさえ、一枚一枚じゃぁ、見てもらえないんだ。
でもね、僕は僕なんだ。 花でも、実でも、 ・・・・・木でもない。
ちっぽけな葉っぱなんだよ。
僕が木になれないのは、当たり前さ。僕は、木じゃない。葉っぱなんだから。

確かに、強いかぜが吹けば、一日で散ってしまうかもしれない。でも、それが僕たちなんだよ。
人が、人として生きるように、葉っぱも葉っぱとして生きるんだ。
木に住むのも、僕の生きかた、散っていくのも、僕の生きかただよ。」


ゆっくり、しかし確実に少女の耳に入るよう、優しく語る。


「ねぇ、ジョンの生きかたは、君が決めてしまうのかい?」
もしかしたら、少女には攻めるように聞こえたのかもしれない。


「・・・・でも、散ってしまうのは、悲しいよ。」ぼそりと、本当に悲しそうにつぶやいた。

「 散ってしまうのは、死んでしまうことじゃないんだよ。あれは、僕らの新しい生きかたなんだ。」

「・・・・・ 新しい生きかた・・・・・?」

「そうだよ。僕らは、形がなくなっても、見えなくなっても、ずっと、ずっと、永遠に生きているんだ。」

「そんなの、わかんないよ。だって、私には、ジョンが消えてしまったら、見ることはできないもの!」

「ジョンが見えなくなったら、君はジョンのことを忘れてしまうのかい?」

「・・・!忘れられるわけないよ!! ジョンは、いつだって大事な友達なんだもの!
生きていなくたって、大事な友達だよ!!」

「・・・・!!」

「そうだね。ジョンは、君が忘れないかぎり、君の中で生きているし、君が忘れても、
きっとジョンは君を忘れないよ。」


「・・・そっか。そうだね。
私、じゃぁ、ジョンに挨拶してくるね!! 私がジョンを見れなくなっても、ずっとずっと、友達だよって、いってくる!」

「きっと、ジョンは喜ぶよ。」

「うん! 葉っぱさん、ありがとう!ほんとに、ありがとう 」

「はやくいってあげて。」


「うん。私、葉っぱさんのことも、忘れないから!!」

少女は、なにかがふっきれたかのように、満面の笑みを浮かべ、家へと走り去っていった。







「 ・・・・    ありがとう。」






___________数時間後_________________

雨もやみ、月が煌々と照る闇の静寂の中、

一枚の葉は、

新たな生きかたへと 進んでいったのである







仁さん、どうもありがとうございましたv

そうなんです。私のサイト名の「葉っぱ」もいろんな意味があるのですv
(途中でサイト名を「葉っぱの気持ちv」から変えちゃったけど)