〜Ordinary Life〜
出会った当初から、クソ生意気な少年で。 スカウトしに行ったのか、ケンカしに行ったのか、わからないくらい。 腹が立って、ムカついて、何度も諦めようとした―― そんなあいつが、あんな表情を見せるなんて・・・ ・・・それはまるで無防備な子供 今にも降りそうな雨・・・ ◇ ◇ ◇ 「真ちゃんは、真ちゃんなりに、悩みがあるみたいですよ?」 「え?」 (真ちゃんて・・・稲田真也のコト?) 川井くんの言葉に、私は思わず振り向いた。 「何か・・・知ってるの? 川井くん」 事務所まで来てわざわざ言いにくるなんてよっぽどのことかもしれない。 確かに彼はグループのリーダーではあるけれど・・・ 私は不安になって問いかける。 けれど、彼は首を振った。少し困った顔で私を見て。 「そうじゃないけど・・・でも、思うんです。時々。 例えば・・・僕と浩平が一緒に騒いでたりするとね。 いつのまにか真ちゃんが僕たちを見てるんだ。 その時の真ちゃんはなんだか・・・ 冷めているっていうより、苦しそうだな・・・って」 (苦しそう・・・?いつも自信満々なあの稲田くんが?) 私は少し首をかしげた。 けれど、常に一緒にいる川井くんには分かることもあるのだろう。 そう思っていたら、先に川井くんに言われてしまっていた。 「でも、きっと北条なら真ちゃんのことがもっと分かると思うから・・・ よろしく頼むよ。北条」 (そんなコト言ったって・・・素直じゃないんだもん。あいつ・・・) 川井くんが出て行った後、私はため息をついていた。 けれど、これまでの稲田くんとの会話を思い起こすと、 少し心にひっかかった言葉があったように思う。 そう、あれは確か家族の話の時だった。 彼は自嘲気味につぶやいていた。 「オレはみそっかすなんだ・・・」って。 そんなことないよ!って言ったけど、確かにあの時の稲田くんは少しおかしかった。 そんなコトを考えていたら、不意に事務所の電話が鳴った。 「もしもし?オレだけど・・・」 それは稲田くんからのお誘いだった。 ◇ ◇ ◇ 「あ〜、すっげー楽しかったーっ あんたもそう思わねぇ?!」 久しぶりの2人だけのお出かけ。 そして久しぶりの稲田くんの笑顔。 川井君の話のせいでいろいろと気になってしまう。 そんな私の気持ちも知らず、彼は忌憚なく言った。 「よぉ、も少し付き合わねぇ?」 「いいよ」 「お〜、いい返事v」 そして私たちは木陰のある公園のベンチに座った。 最近、こうやって時間をとって少しずつ話すことが増えて嬉しい。 「んじゃ、何の話すっかな・・・」 稲田君がそう言ったので、私は待ってましたとばかり言った。 「じゃあね、稲田くんのコトが聞きたいなv」 「!!」 彼は少し躊躇していたけれど、私がにっこり微笑むとついに折れたようだった。 「・・・仕方ねえか。んじゃ、よく聞けよ。 ・・・・オレんちってクソアニキとタコアネキがいるって前に話したじゃん? そいつらがいわゆるイーコちゃんでさ。 オヤジもオフクロもすっげー期待してんのよ。 オレ?いわゆるホーニン主義って奴かな。 何やってもウルセーコト言われねーしよ。 ま、オレは生きてりゃいーって感じで気にしてねーみてーよ?」 話を聞いて、私は感じたままの言葉を口にした。 たぶん彼を怒らせてしまうだろうと思ったけれど。 彼には嘘は言えないから。 「・・・・稲田君、寂しいの・・・?」 「な・・・・っ」 「違うの?」 「バ・・・ッ!バカ言ってんじゃねーよっ。チョー楽だよ。 よけーなコト考えなくてサバサバするぜっ」 案の定、彼は毛を逆立てたネコのように虚勢を張った。 それでも私の視線から逃れるように下を向いた。 「・・・ガキの頃から慣れてるよ。 親戚の連中だっていつもホメるのは上の二人さ。 オレが悪さをしても『仕方ないわね』で、おしまい。 な?ラクチンだろ?」 笑いながら稲田くんはそう言ったけれど、私にはどうみても笑って見えなかった。 確かに、川井くんの言うとおりだ。 稲田君は苦しそう・・・ 胸の内を思い切り言えなくて、どこにも行き場がなくて迷っている。 だから、私は言った。 「ホントに?」と。 「ホントにそう思うの?もっと素直になりなよ!」 「!!」 もっと自分をさらけだして。 胸にためないで。 私は本当のコトしか言わないから。 私の言葉に、彼はひどく驚いた顔をした。 そしてまるで怒られた子供のような顔をしてうつむいた。 「やめろよ・・・ アンタにそんなコト言われるとオレ・・・」 しばらく彼は何を考えているのか言葉を失っていたけれど、 不意にふっきったように顔をあげた。 「今はもうそんなコトどうでもいいさ。 今のオレにはビッグなアイドルになるっていう目標があるんだからな。 でも・・・なんか、しめっぽくなっちまった。ごめんな?」 そう言う稲田くんはいつもの彼に戻っていた。 ううん、いつもより素直な気がする。 それが微笑ましくて、私は思わず笑みを浮かべる。 「ううん、話してくれて・・・なんか嬉しかったよv」 私がそう告げると、稲田くんは突然顔を真っ赤にした。 「え・・・?あ・・・・うん・・・・ アンタしかこんな話、できねーよ。 なんか・・・甘えてんのかな、オレ・・・」 そう言って焦っている稲田くんを見て、 私は改めて思う。 ああ、そうか・・・ よく考えたら彼はまだ 稲田くんはまだ少年だったんだ・・・って。 クラブのDJは一人前でも、 よく考えたらあの川井くんよりも二つ年下で・・・ あの口の悪さも傲慢さも 寂しさの裏返しだとしたら なんて哀しくて不器用なんだろう。 だけど・・・今はそれさえも愛しくて・・・ もう大丈夫・・・ もう見失わない あの日―― 本当の自分を見せてくれた君だから・・・ |
FIN |