〜なぞなぞ〜



「はじめに4本足で、次に2本足で、
さいごに3本足になるモノな〜んだ?」



邸に訪れるや、いきなりあかねにそう言われ泰明は面食らった。
けれど、そんな泰明にかまわずあかねは無邪気に尋ねてくる。

「ねえ、ねえ泰明さん、わかります?」
「・・・・・・・」
「分からないですか?」
「・・・・・神子」
「はい?」
「それが何の意味があると言うのだ」
「意味って・・・・やだなあ!単なるなぞなぞですよ」
「なぞなぞ・・・」
「そう!泰明さんは何でもよく知ってるから答えてくれるかなって」
「・・・・・私は何でも知っているわけではない。
くだらぬ謎解きなら他の者にやらせるがいい」

そっけなく泰明がそう答えると、
あかねは残念そうにつぶやいた。

「ええ〜! だって、なぞなぞっていったら、泰明さんだって言ったのに〜」
「・・・誰がそんなことを言ったのだ」
「詩紋くんが」
「詩紋が?」
「そう。前に『なぞなぞなら陰陽師の泰明さんに聞いてみよう』って言ってたんだよ?」
「・・・・・・・」

それを聞いて、泰明はふうと大きなため息をついた。

「神子。お前も詩紋も何を誤解しているのか知らぬが、陰陽師は謎解きが仕事ではない。
陰陽道を学び、それを人々のため活かすことに意味があるのだ」
「じゃあ、陰陽道って?」
「・・・・・・・・・・・・説明しても分からないだろう」
「そっ、そりゃそうかもしれないけど〜」

とりつくしまもない泰明の言葉にあかねが頬を膨らませた。

「で?」
「え?」
「その4本足が知りたくて、今日の八葉にわざわざ私を選んだのか?」
「ええ?そんなんじゃありませんよ。私が泰明さんに会いたかったんです。
第一、私その答えを知ってますもん」
「何? 答えを知ってて私に尋ねたというのか。・・・無駄なことをする」
「無駄じゃないですよ。だって、泰明さんの驚く顔が見れたわけですし」
「・・・・・・」

泰明の複雑そうな顔を見ながら、
あかねはクスクスと笑った。

「それで答えはなんだと思います?泰明さん」
「・・・・・・・・」
「分かりませんか?」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」

あまりにも長い沈黙が続いたので、
あかねの方がとうとうしびれを切らして叫んだ。

「あ〜もう、いいですってば!答えは『人間』ですよ」
「人間?」
「そう、生まれたときにはハイハイして四つんばいになるから4本足。
成長すると2本足で立って歩くけど、年をとると杖をつくから3本足」
「・・・・・なるほど」

感心したようにつぶやく泰明に、あかねは苦笑した。

「あ〜、でもよくある問題だと思うけどなあ」
「いや、初めて知った。人間とはそういうものなのだな」
「え?」
「私は生まれた時から2本の足で立っていた」
「あ・・・・・・」

そこではじめてあかねは泰明の生い立ちを思い出した。
あまりに自然だったから、つい失念してしまっていた。

「やはり私は不自然な生き物なのだ」

などと泰明が自嘲する前になんとかフォローをしなければ。

「あっ、あのね! 泰明さん、べ、別に深い意味はないんだよ?
何もみんながみんな、年とったら杖つくわけじゃなし、
生まれた時から立ってる赤ちゃんだって中にはいるよ。うん、たぶん!!
だから、泰明さんだってね・・・・・」

あかねが慌てて言う傍らで、どこからかクスリと声がもれた。

「え?」

気がつくと目の前で泰明がかすかな笑みをうかべているではないか。

(ええ?!)

驚くあかねに、泰明は平然と言った。

「すまない。わざと言ってみたのだ」
「はい?」
「神子の慌てる顔が見たくて、わざと言ってみた」
「!?」

つまり、泰明はあかねを動揺させたくて、
自分で罪悪感を伴うようなことを言ったというのだろうか。




「や、や、やすあきさ〜〜〜〜〜ん!!」



だが、あかねの怒声にも泰明は悪びれた様子はない。
それどころか、また一人で何か考え込んでいる様子で。
矛先を向けられずあかねはガックリと肩を落とした。

「あ、あのう〜、泰明さん? どうかしたんですか??」

あかねが怪訝そうに声をかけると、泰明はやっと顔をあげた。
そして言うことには、

「神子。私もなぞなぞとやらをを作ってみた」
「ええ?」
「小さきものなのに、近寄ると眩しくて、不思議な光を放つものはなんだ」


いきなりなその問いにあかねが必死で首をひねっている横で、
泰明は部屋を後にする。

「では、先に行く」
「え?あ、待って!! 泰明さん!! それって抽象すぎてわかんないよ〜」

慌てて泰明を追うあかねを背後に感じながら、泰明はフと笑った。




いくら考えても答えは見つからないだろう。



なぜなら神子・・・



             それは私が感じるお前だから。






謎は解けぬのが面白い。

甘い余韻に浸りながら、
泰明は立ち止まるとあかねに手を差し伸べ、ともに歩むのだった。






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