〜いつも君のそばに〜


「ねえ、お母さん。僕、女怪盗になりたい」

真剣な面持ちで顔を見つめられ
あざみは困ったような笑みを浮かべた。

「う〜ん、草の気持ちは嬉しいけど・・・
女怪盗は女の子しかなれないのよ」
「・・・そう、なんだ・・・」

あざみの言葉に草(そう)と呼ばれた少年は
明らかにがっくりと肩を落とした。
それほど怪盗になりたかったのだろうか。
いや、そうではない。
すべては、幼心にも妹を気遣うゆえに出た言葉なのだ。

草は1歳下の妹「あんず」を、それはそれは可愛がっていた。
傍目で見ても、二人は睦まじく、ケンカもしたことがなかった。
というより、あんずのわがままを草が甘んじて受け入れているようでもあった。
優しい子に育ってくれたのは嬉しいけれど・・・
少々度がすぎるのではないかとあざみと一哉夫婦が懸念するほどでもあったのだ。

今、あんずの女怪盗としての訓練は、はじまったばかりだ。
並大抵のことを切り抜けられなければ、怪盗なんてやってられない。
まだ幼いわが子にそれを強いるのは辛かったが、
あざみもまた同じ道を通ってきたのだ。
もっともすべてを同じ道を辿らせようとは思わなかったが、それはまた別の話だ。
あんずは、これまでなんとかあざみの訓練にはついてきているが、
何分まだ幼くて厳しい訓練に泣き叫ぶこともままあった。
そんな妹を傍目で見ているのが、草は辛く思ったに違いない。



「ホントに草はあんずのことがが大好きなのね」

ある時あざみがしみじみとそう言うと
草は恥ずかしげもなく言い切った。

「うん、僕はあんずがホントに大好きだよ。あんずだって僕のことが好きだって。
こーいうのって相思相愛って言うんだよね」
「そ・・・そうね。ちょっと違う気がするけど・・・でも、草。
好きなだけじゃダメなのよ?」
「え?」
「好きなだけじゃダメなの」
「よく・・・分からないよ、お母さん」

あざみは草の手をとって、その瞳を見つめながら言った。

「いい?あんずは今頑張っているわ。
泣きながらでもイヤイヤでも、なんとか頑張ろうとしている。
そんな時誰かが手をさしのべたらどう?
あんずは頼ってしまうわ。頑張ることをやめてしまう。
それじゃあ女怪盗は務まらないし、あの子のためにもならない。
いずれあの子は自分で生きる道を選ぶでしょうけど、まだその時期ではないの。
あなたには難しいことを言っているって分かってるけど・・・
ただ、お母さんは草があの子の気づかないところで支えになって欲しいと思ってるわ」
「・・・・・」

しばらく少年は考え込んでいたが
ふと顔をあげた。


「わかったよ、お母さん」
「草?」
「僕はあんずが好きだけど、あんずのためになるかどうかをまず考えないといけないんだね。
今まであんずの苦しそうな顔や泣いた顔を見たりするのはいやだった。
可哀想で代わってあげられたらって思ってた。
でも、目をそらしちゃいけないんだね。一緒に頑張らないといけないんだ。
僕にしかできないことをあんずにしてあげなきゃ。
だって、あんずは僕の一番大切な妹なんだから・・・」

そう言って少年は微笑みながら、母親の手から離れ、
そしてかけていった。
あとに残されたあざみの顔にも笑みが浮かぶ。
それは子供の成長を目の当たりにした喜びの笑みだ。


けれど。
去り際に聞こえた言葉は、あざみにとってやはり気がかりな一言だった。


「お母さん、僕はずっとあんずと一緒にいるからねv」


子供の他愛ない思い込みだと誰が一笑に付すことができただろう。
なにせ相手はあの草なのだ。
妹のためなら、性別もなんのその、「女」怪盗になりたいと言い切るあの草だ。


そして、あざみの懸念は的中する。。


「母さん、僕があんずのパートナーになるよ」


高校を卒業する頃になっても
学校一の秀才で、天才ヴァイオリニストと騒がれていても
クラブ活動よりも女の子のファンよりも
草にとって一番大切なのは、いまだ可愛い妹に変わりがなかったのだ。



かくて・・・
ターゲットから女怪盗のパートナーを選ぶことができなかったあんずの傍らには
今、心底幸せそうな兄、草のさわやかな笑顔がそこにあった。




めでたしめでたし?




《あとがき》
草兄ちゃん、かっこいいですね〜vv(いや、この話じゃなくてね)
返す返すもラブラブEDがないのが口惜しい(ーー;) 兄妹話って好きなんですよv

ゲームでは一応倫理上?草兄ちゃんがパートナーに名乗り出た時、「分かってるよ、母さん。あんずに新しいパートナーができるまで、だろ?」と理解してますけど。ちょっとつまんないな〜(オイ)
この話は、そうだなあ小学生ぐらいの話ですか。
いったいあざみと一哉はどーいう教育をしたんでしょうね(笑)
でもって、草兄ちゃん、あのルックスと頭とボケがなかったら、ただの危ない人かもしれない・・・(ーー;)


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