〜独占欲〜
いつからだろう。 望月あんずと怪盗「アプリコット」が同一人物なんだと知ったのは・・・ 撮影のバイトに入った高校生、望月あんず。 彼女は気配りのできる可愛い女の子だった。 年上なのに、からかうと面白くて、話すととても気が楽だった。 父親がいない・・・ そんな境遇も似ていたからかもしれない。 そして、 黄色い声でボクの名を叫ぶファンでもなかった。 熱っぽいまなざしでボクを見つめるファンでもなかった。 だけど、ボクは君に惹かれた。 どうして? ボクのどこがいいんだろう? 彼女の友達がボクのファンだと聞いて、ボクは尋ねた。 ボクはボクが嫌いなのに、 どうしてボクを好きでいられるのか。 彼女は言った。 「う〜んと、・・・ルックスかな」 その答えを聞いてボクは呆気にとられた。 そんなにはっきりと言われたことがなかったから。 でもそれは正直な答えだろう。 アイドルなんだから、ルックスがよくなきゃやってられない。 「君ははっきりと言う人なんだね」 それはイヤミじゃなかった。 むしろ賞賛だった。 お世辞を言われても嬉しくない。 そんな天邪鬼なボクには彼女の答えは新鮮でおかしかった。 彼女は嘘を言わない。 それが妙に安心できたのかもしれない。 ボクはいつしか彼女にいろいろと話していた。 仕事のこと、家族のこと・・・ そして今度はボクの方が君のコトを知りたいと思った。 ボクより二つ年上の女の子。 高校生。 あちこちでバイトをしているみたい。 撮影スタッフ・喫茶店・たこ焼き屋・・・ お金に困っているわけでもなさそうだけど。 気が付くとボクをいつも見ている気がする・・・ なんだかヘン。 ヘンと言えば、そうだ。 同じころにボクの泊まっているホテルにヘンな奴が現れた。 それが怪盗「アプリコット」。 いきなりボクの部屋に現れて、 「あなたのハートをいただきます」 なんてふざけたことを言った女怪盗。 ゴーグルで顔はよく見えなかったけど、 年はそう・・・あんずと同じくらいだった。 彼女はボクのハートを盗みに来たらしい。 けど、別にボクのファンじゃない。 先代女怪盗プラムドからの依頼で、アプリコットがデビューできるかどうかの試験だそうだ。 ボクがつっこんだら、あっさり白状した。 そんな単純な奴だった。 ボクはボクでいられる唯一の時間を こんな怪盗に奪われるのはシャクだった。 けれど、ゲームと思えば気分転換にはなる。 そう思ってアプリコットが来ることを承諾した。 ハート云々は別の話だ。 そんなわけでアプリコットは来るたび、ボクの我がままをしぶしぶ聞いてくれた。 昼間のボクとは大違いの我がままでイヤなボク。 それなのに、アプリコットはめげずに来てくれる。 そりゃそうさ。ボクのハートを奪うために必死なんだ。 だけど・・・ そう思うと、なんだか胸が苦しくなった。 これはゲームなのに・・・ そんなボクにアプリコットはずけずけとはっきりモノを言ってくる。 ボクの迷いも弱さをみんな切り捨てる。 そんな心地よさをいつしかボクは感じていた。 そんな時だ。 彼女と彼女が重なったのは。 いきなりボクの目の前に現れて、 ボクの心の中に入り込んだ君。 いったいどっちの君がホントなの? ボクはそれから彼女に会うたび観察して、 そして確信を深めた。 そしてどちらも彼女なんだと分かったんだ。 でも・・・ どうしてかな? 計画的に現れたって知っても、 彼女を嫌いになれなかった。 ボクは黙ったまま彼女につきあおうとした。 彼女と離れたくなかったから・・・ けれど、そうしたら急に現実味を帯びてきたんだ。 アプリコットの君は、ボクのハートを盗みに来たけれど、 それは試験のためであってボクのことが好きなわけじゃない。 高校生の君はいろんな場所でいろんな人にあって、 そしていずれ本当に好きな人と巡り会うんだ。 撮影が終わったら、もうボクと会うこともない。 ボクのことを忘れてしまう・・・ そんなこと・・・ 耐えられない。 そんなこと・・・ 許さない。 ねえ、あんず? ボクは君のコトが好きだよ? だけど、君はボクのコトが好き? そんな言葉も言えずに、 このまま別れるなんてイヤだ。 自分以外の誰かのものになるなんて耐えられない!! 子供だって言われてもいい。 もうゲームでもなんでもいい。 君を振り向かせたいんだ。 どうしても。 だから、今度あったらボクは・・・ 君を誰にも渡さない。絶対に・・・! |